「く……」
カーテンを閉ざした密室に、殺しきれない呻きが流れる。
息を堪えるのは苦しい。けれど、その苦しさがこれを止めることができない。
早く、早く。もうそこに見えるのだ。切迫の行く末が。
「っ、は……!」
最後の声は形になって溢れた。手の中で迸り脈を打彼の熱。
その一瞬の恍惚の後、彼の瞼に後悔が降りてくる。
殺した息を、机に突っ伏してゆっくりと吐き出しつつ、呟いた。
「ツバサ……」
君のことを考えてこんなことしたって知ったら、怒るかも知れないな。
まだ心臓が高鳴っている。瞼の裏から掻き消えていく面影よりもゆっくりと、
速度を落としていく彼の心臓。
もうすぐ、これは彼のものではなく親友のものになるだろう。
そしていつか、彼の心臓の鼓動を、彼女は聞くかも知れない。
彼は足音を忍ばせて、真っ暗な廊下に出る。
手を洗って、それから小銭と携帯だけ握り締めて、灯りも消えて真っ暗な玄関を出た。
パジャマの素足にサンダルをつっかけて。家族は皆、早寝なので誰も気付かない。
夜の住宅地は寝静まっている。街灯の下を、彼は歩いてゆく。
寂れた公園の前には自動販売機がある。そこでコーラを買った。
それから錆びたブランコに据わった。
「懐かしいな。これ、よく立ち漕ぎしたっけ」
錆びて軋むブランコに彼は話し掛ける。親友とどっちが高く漕げるか、遠くまで飛べるか競った。
今、酷くブランコは彼の目に小さく見える。とてもこの上で立てはしないだろう。
でも、やってみようか。そう思って立ち上がろうとした瞬間、
彼は膝が立たないのに気付いた。
田中美純を叩き起こしたのは、一本のコールだった。
枕に顔を埋めたまま、携帯電話のディスプレイを見る。『門司邦彦』の字が瞬いている。
半ば眠りかぶったまま、彼女は携帯電話を耳に押し当てた。
「田中さんですか」
少年の穏やかな声が、彼女の意識を急激に覚醒させてゆく。
「あ、ぼくです、夜分遅くすいません――やっぱりごめんなさい、切ります」
おかしいわね、取り乱して。名乗るのを忘れて『ぼく』なんて。
「いいのよ、モジくんでしょう。わかっているから」
寝台に身体を起こし、乱れた髪を手櫛で整えながら、彼女は電話の向こうで躊躇う声を促した。
「何かあったの? 言っていいのよ、私はそのためにいるんだから」
「……外で動けなくなりました。ブランコに乗ろうとしたんですけど」
酷く恥ずかしげに、彼は答えた。
ざっと着替えると、ライトバンを走らせて、彼の住む町へ向かう。
調査資料は頭に叩き込んであるので、彼の示した公園の場所も、すぐにわかった。
住宅の敷地二つ分程度の、手狭な児童公園。
「モジくん」
彼は、錆び付いた小さなブランコの上に座っていた。パジャマ姿のままで。
両手にコーラの赤い缶を握り締めて。
「モジくん!」
小走りに駆け寄る彼女を見上げ、モジの大人びた顔に、安堵じみた表情が浮かぶ。
まるで、縋り付くような瞳で、彼は彼女を見詰める。彼女の胸に漣が立った。
「……こんばんは」
しかし、次の瞬間には、いつもの冷静さをモジは取り戻していた。
「どうしたの、こんな夜中に」
「少し散歩したくて外に出たんです」
彼の行動を調べた書類に、非行歴の類は一切なかった。夜間に補導されたことも。
「ああ、気持ちいいものね、夜歩き。でも動けないって、貧血じゃなさそうね」
動揺を押し隠して、美純は尋ねた。
「わかりません。ただ、少し立ち乗りしてみようとしたら、足が動かなくて」
その言葉を、彼女は静かに受け止める。
彼は死ぬ。遠い先のことではない。彼は怯えている。
「ここに座ってたら風邪引くわね。ほら、腕を出して」
彼の腕の下に首を入れ、彼女はその細い身体を支え上げた。
軽かった。
中学一年生の彼は、伸び盛りを迎える前なのだろう。
女の子に騒がれるだろう端整な顔は、彼女の目よりも下にある。
こんなに小柄な少年が、たった13歳で、一体何を背負ったのだろう、と彼女は運命を憎む。
私でさえ、契約をしたことに震える夜が来る。なのに、こんな子供達でなくてもいいではないか。
「ごめんなさい、まだちゃんと歩けない……変ですね」
「モジくん、少しドライブでもしようか? その辺を軽く走るの」
彼女にできることは数少なかった。少年の身体を支えることと、軽い気晴らしを勧めることだけだ。
コーラを握り締めていた手が、カーディガンを羽織った彼女の腕を掴む。
痛いほどの力だった。助手席に座らせるために引き剥がしただけで、心が痛む。
運転席でシートベルトを締めてから、美純は言った。
「そうそう、コーラ開けないでね。ブランコの後じゃ大爆発よ」
隣の席からくすりと笑いが漏れる。その横顔は、街灯の光を受け、青褪めて見えた。
「座りはしたけど漕いではいません。それに、飲みたい訳じゃないですから」
「そうね、あんなところに座ってたらからだが冷えるものね」
車は滑るように動き出す。目的のない二人の後ろに、夜の住宅地は置き去りにされる。
対向車のヘッドライトだけが、時折二人の顔を照らした。
「ファミレスでコーヒーでも飲みましょうか」
モジが口を開くまでに、暫し時間がかかった。
「喉は渇いていないんです。ただ、何かしないではいられない気がして」
酷く唐突に、ジアースの子供達の言葉は美純の胸を刺すことがあった。今もそうだ。
「今月の小遣いも使い切ってないし、って思ったら。
なんだか、変なことばかり考えてしまって」
言葉が途切れた。彼が顔を背け窓の方を向くのがわかった。
なのに運悪く、信号が赤に変わる。車を停め、彼女は窓に映る彼の顔を見てしまう。
彼は決して、涙を見せたりはしないのだ。そのような境に、彼はいない。
彼は既に、どこか遠いところに立っている。
「覚悟はしてるんだけど、ダメですよね」
全てが理解できた。同時に理解ができなかった。
彼女も、覚悟はしている。それでも、目の前に死が迫る恐怖は理解しきれていない。
ただ、僅かに彼が揺れたときだけ、自分に近いと思うだけだ。
「そうね……。私も契約したから、沢山のことが恋しくなる。
お酒を飲んだり、昔なじみと連絡したり、そういうことが」
「お酒はまだ飲めないですから。それに美味しくなかった」
「飲んだこと、あるの?」
「父のビールを舐めたことならあります」
美純は笑った。声を立てて、ひとしきり。
「それ、一番不味いところよ」
「そうなんですか。美味しそうだと思ったのに」
涙が出そうだ。この子達はそんなことさえ知らずに死ぬ。
渇いた日のビールの一口目の美味さも、誰かと夜を明かす楽しさも、
子供が膝に甘える喜びも、何も知らずに。
あの腕を掴んできた手。彼は縋る何かを求めている。
コーラの缶よりは、私の方がましだから私を呼んだのだ。
そう思われたかった。自分自身もそうありたかった。
でなければ、自分が許せないだろうことを、美純は感じていた。
「こっちを向いて、モジくん」
少年が振り向いた。彼女の目には、いつもと同じ顔をして、落ち着いて見えた。
彼は泣くことはしないのだろう。もう、そのようなところは通り過ぎたのかも知れない。
美純はシートベルトを外し、彼の方に身を寄せた。そして右手で、彼の肩を掴まえ、向かせた。
「田中さん」
接吻をした。彼の額に。穏やかな心と冷静さと、彼女のまだ知らないなにかが潜む座に。
彼女は少年の目を覗き込む。対向車線からの間遠な光が、街灯の明かりが、
そこに映っているのを彼女は見た。
「私にはまだあなたのようになれない。大人なのに情けないけど、
私には私の戦いがくる、その時まであなたのようには」
「……田中さん」
「モジくん、あなたの想うことを共有もしてあげられない。
でも、できることはあるの」
そのようなことを言う資格が自分にはあるのだろうか。
そう疑念を感じながら、躊躇うことなく、彼女は言った。
「少しの間だけ、目を逸らさせてあげましょうか」
「関くん? ごめんなさいね、こんな夜中に。私よ。
ほら、うちの情報部が持ってるセーフハウスあるでしょ。今、そこにいるの。
私の権限で使うから、根回しの方、よろしくね」
『か、カナタさんですよね? 何かあったんですか?』
あら、さっきのモジくんと同じだわ。動転すると名乗るのすら忘れてしまう。
「それと、未成年への淫行で引っ張られそうになったらお願い。
うちの旦那から何か言われたら、そっちも口裏あわせてね」
『淫行って……何するんですか!? もしもしカナタさん!?』
電話を切ってから、一つ深呼吸をし、彼女は玄関のノブを回した。
そういえば、コエムシさんに根回ししなくていいのかしら、などと思いながら。
いや、どうせあの口の悪いぬいぐるみは、絶対にどこかから見ている。
そうして密かに二人を嗤っているのだ。
「お待たせ」
築10年ほどになるマンション。生活感のない部屋だった。
家具は寝台とガラスのテーブル、小型のテレビだけ。
「ごめんね、なんにもない部屋で。ここね、危ない状況の人を匿うところなの。
でも、あなたをそういうホテルに連れて行ったりできないから」
彼はシングルの寝台に座ったきり、深く考え込む顔をしていた。
その頬に、ぬるくなったコーラの缶を押し当てる。
「どうする? 少しここでお話してから帰るのでもいいわよ。
お酒を飲んでみたいんだったら、外で買ってくるわ」
彼女は強いて笑顔を作り、はにかみを隠した。
モジがフローリングの床に落としていた視線を、上げる。
「……いいえ、最初のとおりにお願いします」
「じゃあ、脱がせてあげようか」
モジは静かに頷いた。ようやく赤らむ頬に、彼女は救いを感じた。
彼女は床に跪き、彼のパジャマのボタンを外していく。
服の上から支えて感じたとおり、細い肩の、薄い胸板のひどく頼りない肉体がそこにあった。
それでも、彼はなんて美しいのだろう、と目を見張る思いがする。
美しいのは甘い印象の顔や、色の薄い髪だけのものではない。
既に肩幅は広がり始め、腕にもそれなりの筋肉が付き、大人に変貌しつつあることを彼女に教える。
その寸前の、ひどくアンバランスな美しさがある。ジアースの子供達に共通の美しさ。
「あまり見ないでね」
美純は立ち上がると、普段着のカーディガンを脱いだ。
ブラウスやスカートを脱ぐ仕草を少年に見詰められていることに恥じらいを覚えながら。
自分の肉体に自信はある。容貌は同世代の水準を超えていたし、
訓練で鍛え上げた身体は引き締まっている。胸も子供を産んだ割には形を保っている筈だ。
けれど、ジアースの少女達の、すんなりと華奢な手足や弾むような肌には見劣りがする。
大きくなりすぎた尻に劣等感を感じるのも、生まれて初めてだった。
下着姿になって寝台に腰を下ろした美純の隣で、彼は重い口を開いた。
「田中さん、ぼくには好きな人がいます」
知っている。情報部の作成した書類の中で、彼はセーラー服の似合う少女と並んで歩いていた。
彼の向けていた微笑に、心の裡の何かを感じるのは容易い。
「そうね、好きな人ぐらいいるわよね。私にも夫がいるわ」
本当は、自分ではなくてその子とこうしたいのだろう。その彼の心が切なかった。
慰める方法は、ない。そのかわりのように、少年の細い首筋に唇を押し当てた。
そのまま柔らか少年を寝台に押し倒して、美純は掠れた声で囁いた。
「目を閉じて、私をその子だと思って。私もそうするから」
乾いた唇を噛んで、微かに湿らせる。
触れてもよいのだろうか、と己の中の倫理が歯止めを掛けようともがいている。
相手は自分の半分にも満たない歳の、少年だから。
「あ……」
夜の深い沈黙の中に、少女のような声が微かに漏れた。
首筋を唇でちろちろとなぞっただけで、彼は喉の奥で息を詰める。
女性を愛撫する男性の気持ちはこういうものなのだろうか。
切れ長の瞼の奥から上目遣いに見上げながら、彼女はそんなことをふと思う。
「モジくん、声、出していいわよ」
ズボンを履いたままの彼の上に身体を被せ、ぴったりと寄り添いながら美純は胸を高鳴らせた。
彼の胸の上で乳房が潰れて歪む。それ越しに、鼓動は伝わっていないだろうか。
「くすぐったい……です」
「そうね、でもすぐに慣れるから」
戸惑ったような表情で、息を詰め不安そうに見上げるのが可愛くてならない。
その表情を心密かに愉しみながら、鎖骨を降り、印ばかりの乳首に吸い付いた。
「……あっ!」
美純のしなやかな肉体を弾き飛ばす勢いで、細身の体が跳ねる。
彼の言うとおり、くすぐったいのか、それとも初めて味わう快感が恐ろしいだけなのか。
「元気ね」
色白の肌を舌でくまなく覆い尽す。モジの胸が荒々しく上下するのがわかる。
「ほら、わかる? ここがこんなになってきた」
熱く湿り始めた掌で、薄く滑らかな腹部をなぞり降ろした。焦らすようにゆっくりと。
「そこは……!」
そしてパジャマの股間の部分に優しく乗った。そこはもう、形を変えていた。
「言わないでください」
いつもは冷静な少年の声が、上ずっていた。
腕を上げて顔を覆い、彼女の視線から逃れた。
「恥ずかしいです」
「恥ずかしがることはないのよ。こうなって当然なんだから。それに私は嬉しいわ」
自分を追い詰める言葉を彼の耳に熱く流し込みながら、彼女は自分がどんな顔をしているのだろうかとぼんやり思った。
「私も、そうだから」
きっと、酷く淫蕩な女の顔をしているのに違いなかった。
美純の指は彼の腰に掛かり、暖かく微かに湿ったパジャマを引き降ろしていく。
その瞬間、モジがきつく目を閉じ、やがて薄く開く。
(ああ、この歳でも、もう男なのね……)
下腹にまだ獣の毛は薄い。それでも、男の器官は布が退けられた瞬間、
ばね仕掛けの玩具が跳ねるように勃ちあがった。
「素敵よ。後で、これを私に……ね?」
しなやかな指で根元からなぞり上げ、そっとその形を確かめた。肌の手触りと、先端を濡らす雫も。
彼の細い喉の奥から心地よさげな呻きが洩れる。
まだ若いからか、特別なものということもない。それでも、確かな実感と熱を持って、それは掌を焼く。
意識が欲情に蕩けてゆくのを感じた。矜持に満ちた軍人ではない。導く大人でもない。
ただ、これが欲しかった。体の底が疼いて、腰の中で何かが崩れるような心地がする。
潤んでいる。恥ずかしいくらいに。
「ブラ、外してくれる?」
モジの腕が彼女の体に回される。背中で指が戸惑っている。
その焦る顔が、妙に男らしい精悍さを持っているのに彼女は気付く。
「ホックだから、少し押して……そう、ほら、取れたわ」
ふっとカップが浮いて、その中で豊かな乳房が自由になった。
「触って、いいですか」
そんなことを訊かなくても、と答える前に、モジが熱い掌をブラの中にねじ入れた。
「あ……モジくん……」
強く握り締める手。まるでこね回すみたいに扱われて、彼女の中に峻烈な快感が湧く。
その途中、指が彼女の乳首を強く押し潰した。
あられもない声が、その喉から迸る。
「凄い……濡れてる……それに熱い」
ショーツは膝までずり下ろされている。その底に愛液が染みを作っているのを、気恥ずかしさとともに彼女は認めた。
彼の上に突っ伏し、後ろから躊躇いに満ちた指でなぞられながら、彼女は彼の声を聞いた。
「本当は……こうは、ならないのよ。うんと触らないと、準備はできないの」
胸が高鳴る。熱いものが肉の狭間から滴り止まらない。
声も途切れ、喘ぎを殺すのに必死になった。
「どうして、こうなったんですか」
少年は答えることすら躊躇われる残酷な問いを、声を上ずらせながら投げた。
「そんなこと言える訳ないでしょう。……ね、もうそろそろ、いいわよね」
「……準備がないです」
少年の真摯な声。こんな時まで抗おうとしている。彼女は酷く優しい気持ちになって、言った。
「心配いらないわ、危ない日じゃないし、どうにでもなるのよ」
それでも不安そうに揺れる眼差しを向けられながら、彼女はショーツを脱ぎ落とし、彼の腰に跨った。
「いい、君はまだ知らない」
彼のものを宛がい、その熱を愉しみながら、ゆっくり腰を落とす。
肉が入ってくる実感に背筋が反る。モジの形のよい眉が寄り、腰に掛かった手が、女の豊かな肉に食い込んだ。
「モジ君」
肉が不随意な収縮を繰り返すのを感じながら、美純は微笑んだ。
「わかる、私の中にいるのよ」
こくん、と小さく頷いて、モジが呟く。
「熱い……」
「硬くて気持ちいいわ」
早くも登り詰めそうな自分を感じて、彼女はゆっくりと美尻を揺り動かす。
彼もまた、ぎこちないながら突き上げるように腰を動かす。
「そう、上手よ……」
少年のものが、愛液に濡れて光りながら、彼女の中に出入りする。
「は……ああ……あっ……んん」
二人分の、熱く艶かしい吐息が、部屋に響いた。寝台の軋みが、それに加わった。
「田中さん」
汗ばみ高潮した少年の顔が、苦悶に近い表情に彩られる。
「ごめんなさい、もう……出そうです」
「出るの、出るのね」
彼女の声にも歓喜に近いものが現れた。まだ快楽の極みは味わっていない。
けれど、それほどの快感をこの少年に与えたという現実が、至上の喜びを彼女に感じさせた。
「いいのよ、モジ君、出して、中で出して……!」
さらに律動を激しくする美純の乳房の谷間に、背中に、美しい汗が光る。
「ぁ……!」
膣奥で彼のものが一際硬度を増した。その快感に震える彼女の下で、微かに仰け反りながら、
「ツバサ……!」
彼は誰かの名を呻いた。
そのまま、熱いものが爆ぜる。迸るものが脈を打ちながら溢れた。
「ごめんなさい、田中さん……」
繋がったまま、息も荒くモジが言う。その眼差しが、自分を越えて遠いところを見ているのを、美純は感じた。
「謝ることじゃないわ。最初からそうしてって言ってあったでしょう」 「でも……」
「好きなのね、その子」
彼は沈黙した。そして、酷く時間を掛けて考えた後、簡単な答えのかわりに、彼は言った。
「ご好意に甘えて、とてもひどいことをしてると思います」
「……私に悪いと思うことなんてないのよ」
ゆっくりと、彼のものが萎えてゆく。その根元を指で摘んだ。
「ぼくは、自分が酷い人間だとしか思えない」
「だからね、いいのよ」
身体を下の方にずらしていきながら、彼女は少年に笑いかけた。
「私はモジ君が好きよ。勿論一番や二番じゃないけど。そういう相手はほかにいるわ。
でも、こういうことができるくらいには好き」
モジが息を詰める。愛液と精液の混合物に汚れた性器に、彼女が口を付けたからだった。
「汚いです」
慌てた声で制しながら、モジの指が美純の髪に触れる。
しかし、まだ淡い色をした先端の丸みを舌で辿り始めると、その指に力が篭る。
「すぐ元気になるのね」
後ろにも指を這わせる。すると、口から空気でも入れるように、すぐに力がみなぎってくる。
彼女は唾液に濡れた唇を開き、喉の奥まで使って彼をくるんだ。
「田中さん」
信じられない、というような声。
「んく……っ、んっ、ちゅ……」
唾液を乗せた舌が蠢くねばついた音、息継ぎする溜息が、響く。
咥えたまま上目遣いに彼の喘ぐ顔を見詰めると、彼はさらにそれを強張らせる。
「どう、気持ち、いい……?」
口から離すと、びん、と爆ぜそうなものが鼻先や頬にぶつかり、彼女は声を立てて笑った。
「言わなくてもわかるわね。ねえ、さっきの続きをしましょう? 今度はモジ君が上ね」
「あっ、ぅあっ、いい、いいわ……」
精液に汚れたシーツから手を離し、滑らかな背中に手を回す。
そこは微かに律動し、汗に濡れている。
「握らないでください」
苦しげな彼の言葉に、彼女はほんの一瞬意識を取り戻す。
「中で、何かに握られてる感じがする」
その言葉がまた彼女を突き動かす。膣内がきゅんと締まり、彼に溜息を吐かせる。
「できないの、ごめんね……気持ちいいから、こうなっちゃうの」
汗ばんだ彼女の腿の間に、少年の引き締まった腰が触れていた。
目を閉じた苦しげな顔が、彼女の胸に埋まっている。
彼の唇は時々、揺れる乳房を求め、その先端に震える乳首を咥えた。
「そう、そのまま……もうすぐなの。わかるわね」
ぎこちない仕草に揺さぶられながら、美純は嬌声の合間に囁く。
「私を見ないで、そのまま続けて」
迎え入れるように振る腰を見られたくないのではない。
濡れそぼった秘所のあさましさを知られたくないのでもなかった。
ただ、彼が本当に求めるものがあるのなら、自分は身代わりでいい。
だから彼女も瞼を閉じた。本当に想っているはずの人間を思い浮かべて。
「いいわ、モジくん、モジくん……」
……できなかった。腕の中には彼がいる。
こんな子供に本気になって。特に上手な訳でもないのに。
気持ちがいい。止まらない。それが感傷のせいであっても。
「あ、あっ、モジくん……私、もう……!」
ごめんなさい。思い浮かべることもできない誰かに言い訳をして、彼女はそのまま波に呑まれた。
「私、もういくわ、あ……ぁあああぁ……ッ!」
汗まみれの身体をのけぞらせ、きつく痙攣をした。
その彼女の中で、彼のものがもう一度しぶいた。
「……」
叫ぶ彼女の声に掻き消えるほど小さく、モジがまた誰かの名を呼んだ。
それが誰の名なのか、彼女はもう知らない。
胸に伏したままの少年を抱き締め、美純は汗に濡れた額にキスをする。
そういえば、一度も彼とはほんとうのキスをしていない。
(教える順番、間違っちゃったかしら)
醒めつつある頭に小さな罪悪感が浮かんだが、それはそれでいいだろうとも思われた。
全ての身代わりにはなれない自分だから。
まして、こんなおばさんがファーストキスの相手まで務めるのは、役得に過ぎる。
汗が冷えて肌が冷たくなるまで、彼らはそうして抱き合っていた。
「喉、渇いた……」
モジはそう言いながら身を起こして、テーブルに置いたぬるいコーラの缶を取った。
華奢だが美しい後姿を見せて、彼はプルトップを引く。
ぷしゅ、と空気の抜ける音の後、わ、と驚いた声を上げて慌てて口を付ける。
まだ13歳の子供だ。女の体を知っても、それは変わらない。
変わらないまま彼はいなくなる。
「そろそろ空が明るくなるわ」
喘ぎに掠れた声で、彼女は現実を教えた。
「どうする、学校、行く? それともここで、もう少しこうする?」
「行こうと思います。最後まで」
言ってから、愚問だったと悟った。彼は他のことなど考えまい。
何故なら、そこにあの少女がいるからだ。
「じゃあ、明るくなる前に送っていくわね。ご家族に知られないように」
その時、彼が振り向いた。コーラの缶を彼女に差し出しながら。
「その前に一つだけ、お願いがあります」
彼はいつもの、酷く落ち着いた表情になっている。快楽の影はそこにはもうない。
「ぼくの心臓の鼓動を聞いて欲しいんです。友人のものになる前に」
寝台に身を横たえたモジの薄い胸に、美純は頬を押し当てる。
冷たい肌を通して、鼓動が、聞える。
ゆっくりとした、健やかな鼓動。熱い血が通っているのがわかる。
それはモジの命の音。
もうすぐ、これは彼のものではなく彼の親友のものになるだろう。
そしていつか、彼の心臓の鼓動を、彼の想いは聞くかも知れない。
けれど今は彼のものだ。
そのことを忘れるまい、と美純は思った。
自分の命が尽きるときまで。
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